ドラネコ君が初めて競技かるたの大会の雰囲気を肌で感じようと,会場に足を運んだ時のことです。
 その日,ドラネコ君が観戦したのは,И級,F級,G級合同の試合でした。その大会の第一試合は会場の大きな体育館のフロアーで,700人もの選手が札を取り合いました。
 序歌に引き続き一首目が読み上げられた瞬間,会場全体にカラカラという札の飛ぶ音が響き渡りました。
 ところが二首目が読み上げられた時,札の飛ぶ音は一首目の三分の一ほどでした。三首目もさほど大きな音はしませんでした。
 四首目が読み上げられた時,1首目より鋭くて大きな音が,会場全体を満たしました。
 実は公式の競技かるたの大会で使われる取り札の五十枚は,第一試合,第二試合,第三試合といった各試合ごとにあらかじめ決められ,700名が試合を行う場合,350組の札,しかも使われる五十枚は全ての組で同じになるよう準備されているのです。
 第一試合の勝者のみが第二試合に進むとして,第二試合で準備されている札は175組,しかも使われる取り札五十枚は全ての対戦で揃えられています。
 このケースで,第四試合まで行われるとなると,さて,何組の札のセットが用意されていることになるでしょうか。計算してみてください。
 一つの試合で使われる札を各対戦でそろえるのは,たくさんの対戦を同時に並行して行う際,限られた人数の審判が,公平かつ公正な判断を行えるようにするための配慮だそうです。
 ここでみなさんにお願いです。札をそろえる準備は,誰がどのように行っているのか,どれだけの労力がかかっているのか,イメージしてみてください。
 実際には大会を主催するかるた会のみなさんが,事前に念入りに準備しています。どこかの対戦で準備された札が一枚足りなかったら,他の組にはない札が一枚混ざっていたら,これは大変なことになってしまいます。そういうことが起こらないよう準備するために,どれだけ細かい心配りが行われているか,もうお分かりですね?
 競技かるたの大会は,主催するかるた会の,出場者や観戦者に対する大きなおもてなしです。
 このことを強く意識したドラネコ君も,自分にできる形で百人一首を使ったおもてなしができたらいいなあと,強く考えるようになりました。
 とはいえ,全盲のドラネコ君には,一般の競技かるたの準備で札をそろえるお手伝いをすることはできません。そこで自分にできることは何か深く考えた時,さまざまな方々に百人一首を楽しんでもらえるあれやこれやを考えて形にしていこうと思い立ちました。
 そして試行錯誤の日々が始まり,このホームページが立ち上がりました。
 実際にいろいろとやってみると,百人一首の世界にはさまざまなおもてなし要素がかくれていることに気付きました。その気付きにつきましては,順次,具体的なことをまとめていきます。どうぞお楽しみに。
 最後にドラネコ君からみなさんへのお誘いです。みなさん是非,ドラネコ君と一緒に,百人一首の世界からのおもてなしに挑戦したり,一緒に百人一首を楽しんだりしてみましょう。末永いお付き合い,よろしくお願いします。