朝の風景第四章   響け歌声
 二〇一六年二月下旬、卒業式の歌の練習が始まった。朝の会ではどこのクラスからも校歌や『旅立ちの日に』の歌声が聞こえてきた。
 幸い私は、N先生という女性の先生と一緒に音楽の授業を受けもっている。そこで全てのクラスの歌声を録音し、児童が登校する時刻に昇降口でそれを流し、紹介することにした。
 誰かに相談すれば却下される可能性が強い。また、昇降口の外で鳴らしたら、近所から苦情が来るかもしれない。
 そこで昇降口を通り抜けた突き当たりの壁際にCDプレイヤーを置き、小さな音で六年生の校歌の歌声をエンドレスで流した。それから私は、知らん顔をして、教務主任のM先生と一緒に昇降口の外で児童を出迎えた。
 問題が起きたのはその一週間後だった。児童が昇降口から溢れ出し、校舎内へ進めなくなっていた。私は大声で、
「昇降口で立ち止まらないでね、後ろの人たち、校舎に入れなくて困ってるからね。」
と叫び、様子を知ろうと耳を澄まして驚いた。中から大音量で校歌の歌声が聞こえてきたのだ。しばらくすると歌声は止み、奥から気の強い若い女性の先生が児童に、速く教室へ行くよう促す声が聞こえてきた。
「誰よ、こんなところで校歌流してるの。」
いまいましそうな若い女性の先生の声を聞きながら、幸いにもそれが私の仕業だと気づいている人はほとんどいないと思った。
 翌日、私はCDプレイヤーを昇降口の外の広いスペースに出し、小さな音で校歌を流し、その脇で児童を出迎えた。M先生が、
「やっぱり先生でしたか。やり方次第では大きな成果に結びつくと思いますから、あきらめないで、いい方法見つけてくださいね。応援していますから。」
と声をかけてくださった。
 そのうちに児童が私とCDプレイヤーのまわりに集まってきて、
「これ、何年何組ですか?」
と尋ねてきた。
「六年生だよ。他のクラスの歌声も順番に紹介するから、楽しみにしていてね。」
と私は応じた。児童は、自分たちのクラスの素敵な歌声を流して欲しい一心で、一生懸命歌を歌うようになった。
 その日から、昇降口の前に準備したCDプレイヤーから児童の歌声や季節の音楽が流れ、横で私が児童を出迎える姿が、中央小学校の新しいW朝の風景”となった。
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