朝の風景第六章 雨の日も風の日も雪の日も
毎朝私の乗る、近くのショッピングモール始発のバスは、どんな天候でもほぼ定刻通りに動く。しかし年に数回、そのバスに乗り遅れたら始業前に学校に着くことの難しい日がある。
中央小学校に勤めるようになり、初めての大雪の日、三分ほどバス停に着くのが遅れてしまった。いつも乗るバスはもう通過した後だった。
次のバスは一時間遅れで来たが、運転手はマイクで、これ以上お客さんを乗せることができないため後から来るバスに乗るよう告げて行ってしまった。結局バスに乗れたのは八時を過ぎており、九時近くにへとへとになって学校に着いた。
以後、私は、どんな時もいつものバスに乗るよう心掛けた。私は雨の日も風の日も雪の日も、ほぼ決まった時刻にバスを降り、オリオン通りを横切り、学校に着いた。
しばらくすると、商店街で働く人たちが毎朝代わる代わるあいさつしてくださるようになった。中には私が通過する時刻に仕事の手を休め、声をかけてくださる方も出てきた。
二〇一八年一月二三日火曜日、朝、家を出たら三十センチほど雪が積もっていた。それでも私は長靴を履いてバス停に向かい、いつものバスに乗った。
バスを降りて歩き始め、オリオン通りに向かう点字ブロックの上の雪が全て片づけられていることに気付き、驚いた。すぐに、いつもあいさつをしてくださる商店街の人たちが声をかけてきた。そして私の手を引いて、学校の玄関まで送ってくださった。
七時前だというのにたくさんの先生方が出勤し、校内の児童の通り道の雪は既に片づけられていた。
職員室に行くと、お腹に赤ちゃんのいる先生が一人で電話番をしていて、他の先生方は商店街の人たちと共に通学路の雪かきに行ったことを教えてくれた。私は足手まといになってはいけないと考え、児童の登校時刻まで職員室にいることにした。周囲のために、子供たちのために何かしたくても何もできないもどかしさと、児童が何らかのアクシデントに巻き込まれないかという不安が胸中を満たしていった。
七時半を過ぎた頃、私はネガティブな思いを振り払い、昇降口の前に丸椅子を置き、CDプレイヤーで童謡の『雪』を流し始めた。
「ゆーきやこんこ あーられーやこんこ……」
降り続く雪の中、明るく弾む歌声が響き渡る。しばらくして遠くから大勢の子供たちが私を呼ぶ声がした。
やがて子供たちが交通指導員さんや保護者に付き添われ、登校班ごとに次々に登校してきた。子供たちはいつもよりもずっと明るく元気にあいさつして校舎内に向かい、大人たちは私の手を取って思い思いの感謝の言葉を残し、帰っていった。私は溢れそうになる涙を瞼の奥に押しとどめるため、いつもよりカラ元気を出して周囲に言葉を投げかけた。
「今日はこんな天気だけど、みんなの元気で学校を明るく楽しくしてくださいね。」
児童が全員無事に登校した後、私はほっと息をついた。そして、目の不自由な私が、児童の心を支えようと強い願いや理想をもって、今ここに居ることに意味があると確信した。
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